母親が「家庭における義務」を怠ることがないように国は保障を――。アイルランドの憲法にはこんな一文がある。
女性を差別した文言だとして政府が憲法改正を提案し、3月に国民投票に付されたが、反対多数で否決された。
アイルランドは国民の8割をカトリックが占めるが、近年はカトリック教会の影響を受けてきた法制度を見直して同性婚や人工妊娠中絶を認めてきた。なぜ否決されたのか。
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今回の憲法改正案のあらましは次のようなものだ。
現行憲法は1937年に制定された。
問題とされたのは、「家族」について規定する憲法41条の2節と3節だ。
41条2節は、母親たちが「家庭における義務」を怠って働きに出ることがないよう、国は努力をしなければならないと定めている。女性の役割だけを定めている点が時代遅れだとして、削除が提案された。
代わりに、家族の絆に基づく「家族による家族へのケアの提供」の重要性を盛り込むとされた。
もう一つの改正提案 婚姻だけが家族か
もう一つの41条3節は、「家族の基礎たる婚姻制度」を特別に保護することを国に求めている。この条文は、家族の中心にあるのは婚姻関係であり、婚姻を基礎とする家族のみが保護の対象だと解される。
だがそれだと、同居カップルやその子どもは保護すべき「家族」ではなくなってしまう。政府は婚姻だけでなく、「その他の持続的な(durable)関係」も家族の基本となるよう、条文を改正しようとした。
改正には主要野党も賛成したが、国民投票にかけてみると、「女性の義務」削除には73・93%、婚姻だけでなく「持続的な関係」も家族とする変更には67・69%が反対した。投票率は44・36%(投票者数約150万人)だった。
識者の見方「緊急性が…」
これはどのような意味合いを持つのか。アイルランドの社会経済史に詳しい大阪産業大学の高神信一教授に聞いた。
――国民投票での否決をどう受け止めましたか。
うまくいかないだろうな、と思っていました。
3月8日の「国際女性デー」…